« ホームへ

音曲祝祭行 - 大木雄高

「茶々&ちび〜三角橋の猫の歌」流れる街をどうしようと?

「何がエコだ。自然に対置して人間は何も出来ないし、何もなし得ない、無力であ る。そこは死の世界だ」と、写真家の白川義員が登山家の野口健に語りかけている。 テレビの画面には、戦慄を覚えるヒマラヤの山々が神のように居座っていて、怖じけ ずく者にどうだ来いよと言っている。ヒマラヤ一帯を体験済みの野口健が未登頂だと いう、エベレストの東壁が朝日を浴びて真っ赤に染まっている。東壁は気流の関係で いつ墜落するか分からない魔の空域らしいが、二人が乗った空撮機はそこへ近ずきな がら、「この鮮烈な風景は原初の風景です」と白川義員は言う。圧倒されながら北斎 の赤富士の絵が浮かんだ。

次に伊豆の堂ヶ島にやって来た写真家は、「自然の流れは 遠くではなく近くに有るもの。そこに気づくかどうかだ」といいつつ、カメラ位置を 移動し、空気が創る朝日の色と波の形の決定的瞬間を何日も待っていた。 番組が終って外を見やると雪だった。東京では珍しくこの様子だと積もるに違いな い。不意に十日余り前に亡くなった浅川マキのことが浮かんで雪を観ていた。「人間 なんか自然に勝てるもんじゃない」とさっきの写真家の言葉が浮かんで、俺は浅川マ キが歌ったアダモの『雪が降る』を思い出していた。

 小夜雪や 小夜曲歌う きみの雪
 2月1日下北沢に雪が降って、新春の雪がこの街の今年の行方を巡らせる。街の再開 発の前に現在大工事中の小田急線地下化と、下北沢駅、隣の東北沢駅、世田谷代田駅 の駅舎構想だ。今はこの屋根あの屋根どの屋根も雪を被せているが、世田谷官僚は相 も変わらず自然だ、緑だ、ガラススクリーンだと言って、長い年月〈持続可能〉な街 として生きて来た下北沢の景観やDNAの踏襲はどこにも無い。

有るのは何処の町にでもある
立派なランドマークだ。
勿論構想は直後に控えている
街の再開発と連動している。

 2005年11月2日、「シモキタ解体」と題した〈下北沢を揺さぶる再開発の欲望を問 う〉ライブイベントにパネラーの一人で呼ばれた。その年何回目かのトークイベント で、下北沢の都市計画に対して〈見直し〉を求める住民側が具体的に動き始めた年だ った。社会学の東大大学院教授、元建設省官僚の都市プランナー、Save the 下北沢 代表、俺と言った面子がケンケンガクガク自由なトークセッションを展開したのだ が、後に控えていたのが、hi-posiのもりばやしみほと朝日蓄音の朝日美穂、二人の みほは下北沢の住人だった。そして下北沢のパチンコ屋のチンドン音楽を発祥源にし ている大熊ワタルのジンタらムータのライブの顔ぶれに加えて、隅っこでお手当治療 を施しているのが路上医の広田赤ひげだったり、路上漫画弁士の東方力丸だったりす るのだ。会場のタウンホールに、所狭しとパフォーマンスが混在した文化がシモキタ とも言える訳で、塀で閉じられてない縁側の有る街と言うか、平板なその猥雑性こそ 〈持続可能〉な街の源泉だったのだ。経済でもなく政治でもなく〈文化〉が街のエネ ルギーの源泉だった。仕掛人がシモキタのタウン誌「ミスアティコ」を出していた木 村和穂と言う当時大学院生だったのもシモキタならではだった。

 それから四年経った昨年世田谷行政は「自然光」を取り入れたり、「エコ」に充分 気を使ったモダーンな駅舎プランを出して来た。〈再開発の欲望を抱くのは誰か?〉 は「シモキタ解体」のキャッチコピーの一つだった。区は小田急線が地下になった後 の土地に関する跡地利用区民意見検討委員会なるものを立ち上げて、見せ掛けの意見 募集をやって、駅舎は知らないうち三倍にふくれていた。改札内の特権的商業施設は 街の商店を当然劣悪化させる訳で、区は住民に背いて迄も小田急の飼犬に堕している ようだ。区長が一月二十二日付けの広報誌に曰く、「持続可能な社会をめざして」 「見直し」を進めていくらしい。恥を知れよ! 「持続可能」も「見直し」も君たち が言う住民と言う敵が求めていた言葉じゃなかったのか? ブッシュが9.11の後アフ ガンに、ピート・シガーの代表的な反戦歌『ウィー・シャル・オーバーカム』を掛け て攻め入った件と一緒ではないか。

「シモキタ解体」が終った後、
「補助54号線の見直しを求める
下北沢商業者協議会」は立ち上がり、
四年強経った今も〈見直し〉を求めている。

176.jpg

2010年02月10日 11:03

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:

http://crossroad-kbp.sakura.ne.jp/mt/mt-tb.cgi/499

メールマガジン『道楽の友』

K&B出版部がお届けする音楽・サブカルチャー関連の耳より情報。 もちろん新刊情報・フェア情報もあります。

こちらK&B出版部

何が飛び出すかわからない!?音楽・サブカルチャー書籍の出版部が綴る業務日誌。

K&B編集部だより

旅行ガイドブックや雑誌を制作しているK&B編集部が最新情報をお届けします!

K&B’s ネットワーク

K&Bの文化ネットワークを垣間見よ! 刊行書籍の著者リンク集。

K&Bパブリッシャーズの本

新刊

(書籍)東京ディスコ 80's&90's

『東京ディスコ 80's&90's』
バブル時代のディスコ文化について検証したインタビュー集が登場!マハラジャ、キング&クイーン、エリア、シパンゴ、Jトリップバー、ジュリアナ東京、ヴェルファーレ…バブル時代のディスコ黄金期、11人のドキュメント。 岩崎トモアキ編 1600円(税抜き)
話題の本

(書籍)非常階段 A STORY OF THE KING OF NOISE

『非常階段 A STORY OF THE KING OF NOISE』
ノイズバンド「非常階段」の30年史を綴った史上初のドキュメントが完成。今明かされる、ジャパノイズの形成と発展。ノイズファン、ロックファン必読の書! JOJO広重他共著 3000円(税込)